受け継がれる“さかみなブルー”。次世代が紡ぐ「弓浜絣」に境港で出会う

工芸品・お土産 2021.05.14

人の手で丁寧につくられたクラフトが好きな私は、“モノにもココロが宿っている”と思っています。だから、旅にでると、その土地の人が想いを込めてつくるローカルな工芸品を探すのが楽しみ。

今回ぶらりと訪れた境港には、昔からこの地で親しまれてきた染織物「弓浜絣(ゆみはまがすり)」があることを知り、次世代を担う若き職人が開いている「弓浜絣工房B」を訪問。そこで出会ったのは、先人たちが紡いできた伝統を受け継ぎつつも現代の自分色をプラスした境港職人の青、古くて新しい“さかみなブルー”でした。

深いブルーが印象的な「弓浜絣」は、250年以上前から織られてきた日常の手仕事。

藍染の深い青と木綿の白が織りなす素朴な模様とざっくりとした風合いが特徴の「弓浜絣」は、鳥取県西部・境港市から米子市にかかる弓ヶ浜地方でつくられている染織物。その歴史は古く、今から250年以上前の江戸時代中期までさかのぼります。

海に面した弓ヶ浜は水はけのいい砂地で、「伯州綿」という良質な綿の産地。当時の女性たちは身近にあった伯州綿を使い、自ら絣を織りはじめます。

「弓浜絣はもともと農家の女性たちが家族の衣服のために織っていたもの。普段着にする布としてつくられていたので、とても丈夫にできています」と教えてくれたのは、弓浜絣工房Bを開く佛坂香奈子(ぶつさか・かなこ)さん。
長野と東京で最先端の繊維や衣類を学んだのち、担い手が少なくなった弓浜絣の伝統を継承するため地元・境港へ戻ってきた若き職人です。

現在、精力的に製作活動を行っている佛坂さんに弓浜絣の魅力を尋ねてみると、「土地とそこに住まう人に適したものが残っているという“自然さ”。近くで育つ良質な伯州綿を材料にして、農作業にも耐えられる丈夫な絣を自分たちの手でつくる。今も昔から受け継いできた自然な流れでものづくりができているのは、私にとって大きな魅力です」。

弓浜絣のことをいろいろ教えてくれた、弓浜絣工房Bの佛坂香奈子さん。

佛坂さんが織った弓浜絣。オリジナルの模様は境港の名産「カニ」がモチーフです。

自ら綿を育て、手で紡いで糸にする。今も昔と変わらぬ工程で丁寧につくっていく。

絣という染織物は、とてつもなく多くの手間がかかります。糸で模様を染め分けるため、図柄にあわせて緻密に糸を括ったうえで天然の藍で染色。深い濃紺に染め上げたのちに糸の括りを解き、昔ながらの機(はた)を使って手織りしていきます。

さらに弓浜絣工房Bでは、素材となる伯州綿の一部を自ら栽培しています。春に種をまいて秋に収穫する綿は、無農薬で育てた究極のオーガニックコットン。その実綿から種をとり、手で糸を紡ぐのです。手間はかかりますが、機械による紡績糸にはない独自の風合いをもたらすことができるため、弓浜絣には欠かせない工程のひとつ。

「弓浜絣は一度も機械化の波に乗っていません。今も昔と変わらない方法で製作し、およそ30ある工程もすべて手作業。うちでも境港からほど近い島根県安来市の紺屋(こうや)にお願いする藍染以外は自分の手で行っています」と佛坂さん。

全行程を経て一本の反物を完成させるには2ヶ月もの時間がかかるそう。大量生産できないため価格はどうしても高くなりますが、職人の手間とものづくりへの想いが込められた弓浜絣には何ともいえないあたたかみがあり、手にする人の気持ちをふんわり幸せにしてくれます。

弓浜絣の素材は伯州綿という良質な綿。佛坂さんは自宅の畑で栽培し、材料の一部にしています。

伯州綿は種を取り除いて綿打ちし、糸車でやわらかくも丈夫な糸に紡ぎます。

弓浜絣を現代にアップデート!
バリエーション豊かな“さかみなブルー”が暮らしになじむ。

弓浜絣はこの地に住まう人々の暮らしの中で使われてきた生活布。「昔の人は普段着に仕立てて農作業で着用し、毎日洗濯していました。擦り切れるまで着倒して、最後はオムツや雑巾にして使い切っていたそう」と話してくれた佛坂さんは、現代人の生活スタイルにマッチするよう弓浜絣をアップデートしています。

「模様にしても今の暮らしになじむものがあるはず。鶴亀といった古典柄は好きなのですが、それが今のリビングに似合わないこともあるので新しいモチーフにもチャレンジしています」。

手で紡いだ糸を藍でしっかり染めてから織り上げた弓浜絣は、とても丈夫。糸に模様をつけた先染めなので、洗濯を繰り返しても柄が薄くなることはありません。佛坂さんも「経年変化するので使えば使うほど味わいがでてきます。デニムのように、自分になじんでいくのを楽しんでもらいたいですね」と想いを語ってくれました。

弓浜絣工房Bでは製品の購入ができます。さまざまなアイテムがあり、お手頃価格の小物(1,000円〈税込〉程度〜)からワンピース(80,000円〈税込〉程度〜)までラインナップ。弓浜絣の特徴である青色のバリエーションも豊富で、藍染らしい濃紺からブルーグレーまで多彩。自分好みの“マイさかみなブルー”を探せます。

悩みに悩んで、私はメガネケース(3,000円〈税込〉)を買いました。大切に使います!

また、弓浜絣つくり体験も可能(要予約)。行えるのは、綿繰り機を使って綿から種を取り除く「種繰り」や綿を糸車で紡ぐ「糸紡ぎ」、織り機を操作しての「織り」とどれも佛坂さんが普段やっている作業。観光客向けに用意したお試しではなく、実際の工程を担当するため少し緊張しますが、佛坂さんが丁寧に教えてくれるので楽しく体験できます。

佛坂香奈子さん
弓浜絣職人 1984年鳥取県境港市生まれ。2007年信州大繊維学部感性工学科卒業後に文化服装学院服飾研究科へ進学。その後鳥取県弓浜絣後継者養成研修のため帰郷。第1期生として3年間研修に従事。2010年研修修了後に独立し、「弓浜絣工房B」を開業。畑での伯州綿栽培、手紡ぎ、手括り、手織りをベースに現代にマッチする弓浜絣を製作販売。

弓浜絣工房Bでの商品の購入や体験は予約制です。佛坂さんが工房にいない場合もあるので、必ず電話やメールなどで予約してご訪問ください。
また、Webサイトには弓浜絣の歴史や特徴、製作工程も詳しく説明されています。あわせてご覧ください。

施設情報

弓浜絣工房B

弓浜絣工房Bホームページ
鳥取県境港市中野町5473
TEL / 0859-21-5939 営業時間/ 10:00~17:00

(text by MASAMI urayama)

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